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『シークレット・サンシャイン』イ・チャンドン監督来日インタビュー
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イ・チャンドン監督

4月12日、東京都内にて『シークレット・サンシャイン』(6月7日よりシネマート六本木ほか全国順ロードショー)のイ・チャンドン監督の合同インタビューが行われました。
本作は、幼い息子を杖手亡き夫の故郷に移り住んだシングル・マザーのシネ(チョン・ドヨン)と、純真で不器用な地元の男ジョンチャン(ソン・ガンホ)の悲しみの魂が紡ぎ出す物語。2007年カンヌ国際映画祭ではチョン・ドヨンが主演女優賞を受賞、そのほかカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、トロント国際映画祭、ロンドン映画祭、ニューヨーク映画祭など世界中の映画祭を席巻。2007年11月に開催された第8回東京フィルメックスではクロージング作品としても上映されました。

イ・チャンドン監督は『グリーン・フィッシュ』(97)、『ペパーミント・キャンディー』(99)を世に送り出し、『オアシス』(02)では2002年ヴェネチア国際映画祭で監督賞を受賞、その後2003年にノ・ムヒョン政権下の文化観光部長官の職を経て5年ぶりの復帰となる監督第4作目が本作です。

イ・チャンドン監督

イ・チャンドン監督

―日本でも6月7日より公開されます。どのような人たちに見てもらいたい作品とお考えですか?

私は最近作られる映画を観ると観客を限定してしまっている映画が中にはあるような気がしています。例えば、サッカー映画であったり、芸術映画であったり、映画祭で見られる映画というのは作り手も観客を限定してしまって、理解できる人たちだけが理解するような、そういう風になっているような気がします。そしてその理解できる枠というのもだんだん小さくなっているような……内輪だけで分かり合える人たちだけが意思の疎通を図っているような気がしてならないんですが、全体的に見ると映画は両極化してると思います。今言った極一部の限られた人たちだけが理解できる映画と、もうひとつは娯楽として消費されてしまう映画と、その両方に分かれてきてしまっているような気がしています。

私は映画というのは、どんな形であれ観客と意思の疎通を図る、きちんと観客と向き合うものだと思っています。ある一部の観客を対象にするのではなく、どんな観客とも出会って欲しいと思っています。

もしかしたら観た時にちょっと窮屈な思いをしたりとか、「見慣れないな」と違和感を感じる映画であっても、そう思うことが心の通い合いのスタートだと思いますので、多少そのような印象があっても、やはり映画館に足を運んですべての人に観て欲しいと思っています。

―基となった原作「虫の物語」は20年以上前にお読みになった本だそうですが、そこから本作を作るに至った経緯はどういったものでしょうか。

原作を読んだのは1980年代の半ばでした。その時はまだ映画の仕事に就く前で、将来映画に関わるとは想像すらしていませんでした。ですから、心の中には入り込んでいたのでしょうが、ずっと忘れてました。ところが『オアシス』という作品を撮り終わった後に、忘れていたと思っていたその作品が語りかけてきたんです。おそらく、以前読んだ時に心の中の種となって芽を出して育っていたのではないかと思います。

それで構想を練り始めた直後に公職に就いてしまったのでしばらく中断していました。構想を再開したのは2004年の末くらいで、シナリオを書いたのは2005年の後半から6ヶ月くらいの間ですが、実際に書いていた期間は1ヶ月くらいです。私はどちらかと言うと、じっくりと頭の中で物語が出来あがるのを待つタイプなんです。

イ・チャンドン監督

―主演にチョン・ドヨンとソン・ガンホを起用した理由を教えてください

私は俳優に会うときに、その人がどういう演技スタイルを持っているのかとか、どういう演技を見せてくれるのかとかはまったく問いません。会う時に俳優として会うのではなく、人間として会い、人間としてどういう魅力があるのかを感じるようにしています。俳優誰々に会うのではなく、人間誰々に会った場合にその人に魅かれるかどうかというのが重要な点になってきます。私が人間として俳優に会ったときに魅かれるものがあれば、それがきっと観客に伝わると思うからです。
チョン・ドヨンさんの場合には、以前に出演した作品の演技はまったく考慮しなくて、一個人として人間として彼女を見た時に「あなたはまさにシネさんですね」と思えたので、起用したんです。


ソン・ガンホさんはキャスティングの経緯が違っていて、言葉の問題が絡んできます。作品の舞台となる密陽(ミリャン)という都市は慶尚南道という地方にある町ですので、方言が必要だったんです。慶尚道地方特有のカラーを出すためにどうしても言葉のニュアンスが必要でした。だから慶尚道出身の俳優でなければなりませんでした。
今回、ソン・ガンホさんが演じたジョンチャンという人物は、もしかしたらシネの役より難しい役だったかもしれません。シネはとにかく前面に出て映画を引っ張っていくという役だったのですが、ジョンチャンはその2、3歩後ろにいて時にはフォーカスが合っていないシーンもあります。その上で映画全体を見たら内容的には2人がきちんとバランスがとれていないといけなかったので、目に見えない存在感とでも言うものが求められました。全ての条件を満たす有名な俳優はソン・ガンホさん以外に選択肢がありませんでした。考えてみたらチョン・ドヨンさんとシネがそうであるように、ソン・ガンホさんもジョンチャンそのものだったと思います。

―演技の指示はどのようにされたのですか?

チョン・ドヨンさんに限らず私が俳優に望むのは、演技をしないことです。演技をせずにその人になることを受け入れてくれとお願いしています。その人物になることを受け入れて、その人物の心を感じ取って欲しいと言っています。その俳優が与えられたキャラクターになってしまったと思ったら、それ以上どんな些細なことも注文はしません。なぜかというと、その人がその人物になっていたら、その人物の感情どおりに動いて言葉を発しているわけですから、こちらは評価できないと思うんです。

でも私がそういうことを言うと、俳優さんが本当に辛くなってしまって苦労してしまうんです。こちらとしてはそういう考えを持っていますから「今の演技ははすごく上手だった」とも「下手だった」とも言いません。だから俳優にとっては説明不足だと受け取られているかもしれません。私としては「こういう状況だからこういう感情だから」ということを一切説明せずに、とにかく俳優自らが感じてくれることを願っています。こちらで何らかの意味を考えて説明してしまうと、外から与えられたものになってしまうような気がします。だから説明してしまうことはタブーだとすら考えています。

なぜかというと、私たちも「今のこの人生にはこういう意味があるから、こう行動しよう」と考えている人がいないように、できるだけ説明せず、説明することが演技の邪魔になるとすら考えています。俳優も本当に苦労していることも分かっていますが、話し合いをする時は、演出に関わる話とか役柄に関わる話はほとんどしません。私は俳優が水が何かに沁み込むように自然に役柄になりきって欲しいと思っています。だから、私のやり方は具体的に「こうしろ、ああしろ」というディレクションの仕方ではなくて、その人物になってもらうためには関係ない話をした方が効果的であると思います。

イ・チャンドン監督

―ジョンチャンが韓国のどこにでもいそうでものすごく身近な人物に感じたのですが、それは映画のテーマに通じますか?

まずこの映画を見た観客に受け入れて欲しいと思っているのは、もし私たちが生きている世の中に希望とか救いとか人生の意味があるとしたら、それは近くにあるということを感じ取って欲しいということです。今、私たちが両足をつけて立っているこの地にしか希望や救いや生きる意味はないんだと思って欲しいと考えています。
私たちがいる場所が美しく素敵な所というわけではなく、ちょっとみすぼらしく見えたり、取るに足らない所に見えるかもしれませんが、自分が今ここに居るから、だからこの場所にしか人生の価値や意味はないんだということを伝えたいと思ったので、ジョンチャンというキャラクターを作りました。

ジョンチャンは本当に周りにいそうな人物ですし、垢抜けていなかったり、浅はかだったり、世俗的だったり…それはある意味で現実です。現実を人格化したらまさにジョンチャンのような人物ではないかと思います。よく韓国にいるような人です。特に韓国の地方都市に行くとジョンチャンのような人はよくいます。シネに惹かれた理由も、シネがソウルという都会出身であるということ、そしてバツイチですから隙があるんじゃないかという単純で世俗的な理由で惹かれたのだと思います。

―公職に就かれた理由は?

いろいろ複雑な事情はありますが、実は公職に就きたくて就いたわけではありません。仕方がなかったのです。最初は嫌で逃げ回っていたくらいだったのですが、最後は観念しました。人というのは生きていく中で嫌なこともしなければいけないとか、時には苦い杯も飲まなくちゃならないんだいう現実を受け入れることにして公職に就くことにしたんです。

ですが、実は文化・芸術面でやることはものすごく多いんです。韓国の場合、国家的な価値として経済発展が優先されていたので、政策もすべてそちらに力が注がれていました。文化・芸術に関わっている人がなんらかの方向性を見い出し、文化・芸術を発展させる政策を立てるということがありませんでした。そういったことも背負って担当することになったんです。

自ら招いた結果ではありますが、できるだけ文化観光部長官出身という肩書きを忘れたいし、みなさんにも忘れて欲しいんです。あまり好きな肩書きでもありませんので(笑)。特に韓国の観客には忘れて欲しいですね。観客にしてみれば「長官出身の監督が作った映画なんて興味ない」と感じると思うので、できるだけ早く忘れて欲しいです。

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【関連URL】
『シークレット・サンシャイン』オフィシャルサイト
http://www.cinemart.co.jp/sunshine/


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